オマーン最高峰のシャムス山(3,028m)まで登るその道は、果てしなく遠く、頂上だと勘違いしてしまうような絶壁に、何度も出会った。
先ほどMountain Houseで出会った日本人男性が前を引っ張ってくれる。ちょうどいいペースで前を進んでくれるので、本当に助かった。
どちらから来られたんですか?
オマーンは何をきっかけに参加されたんですか?
いつもはどんなレースに出られてるんですか?
はじめましてなので、ありきたりな質問をしながら登った。自分のコミュニケーションの低さを感じつつも、すべてに応えてくれるその男性のやさしさに有難さも感じていた。ただ、あまり話しながらレースに挑むのが苦手な私は、その方のあまり話さなくても大丈夫なオーラがとても心地よかった。
暗闇のシャムス山は岩がゴロゴロし落石も心配されるような登り坂が続いたり、ひたすらひたすら登らされたと思ったら、トラバースしながら下り、また登り返す。そういったことに何度も何度も立ち向かった。
息が上がり、なかなか前に足が出ず手に持っているストックに体重をかけて立ち止まることも何度もあった。そのたびに、すぐに気づいてくれ、何も言わずに先の方で立ち止まってくれた。
大丈夫です。行けます。
またゆっくり動き出してくれた。この繰り返しを何度も何度も繰り返した。絶妙なタイミングで、岩に腰をかけて休息を入れてくれ一緒に呼吸を整えた。
夜空の星がとても綺麗だった。
4時40分、このコースの最高峰であるSummit Split(127.7㎞/8769m+)に到着した。先ほどのMountain Houseからたった5.1㎞なのに、4時間もかかったのだ。どれだけタフなコースなんだ。
ここではホットコーヒをいただいた。オマニコーヒーだ。この遠征中ひたすら飲んでみたかったオマーンのコーヒーを、この山頂で頂くことができた。しかもデーツと一緒に。
奥で焚火が見えたので、一度温まりたいと軍人さんにお願いをした。快くOKと答えてくれ、案内してくれた。引っ張ってくれた日本人男性とともに焚火の前に横に並びあたたまっていると、軍人さんが自分のブランケットを貸してくれた。近寄りすぎると危ないから、足にこれをかけなと。
あたたかい。
あともうひと息だ、と思うが、エネルギー不足の身体で動いて早12時間。アタマはボーとするし、冷えたカラダが温まると今度は眠くなってきた。日本人男性もウトウトしているのが分かる。
軍人さんが、君たちはジャパニーズか?とまた聞いてくれた。イエスと答えると、総合三位で女性のジャパニーズが走っているよ、と教えてくれた。薫さんだ。彼女はパワフルだね、とびっくりしたと話してくれた。
やっぱり薫さんはスゴイ。このコースでも自分の走りが出来ていること、ペースを落とさずしまいには男性と互角に走っている。すごい。。。。。私も頑張らないと。
素直にパワーをもらった。
二人はフレンドかい?と軍人さんに聞かれた。
そうだよ、と答えた日本人男性は、付け加えて『TODAY』と言った。
軍人さんは驚いて笑いながら一緒にオマニコーヒーを飲んだ。とても美味しく、デーツととても合う。サポーターが美味しい美味しいと食べていた様子が目に浮かぶ。談笑しながら、英語ができる日本人男性の横で安心してその会話を聞いていた。焚火の前に座るこの時間が妙に居心地がよかった。ウトウトと二人で頭を揺らしながらボーとし始めた。
行きましょうか。
居心地の良さに時間を忘れてしまいそうだったが、まだ終わってない。
夜が明けてきた。
明るくなってくると、日本人男性の方のペースが落ちてきた。どうしましたか、と聞くと、眠くなってきたというので、私が前に出てペースを今度は引っ張ると名乗り出た。さっき寝たから眠気はない。今度は私が。
足元を気にしないとすぐに足が取られてしまう下りだったが、広がる壮大な景色に目をやられた。
朝日が大地を赤く染めていった。
太陽がわたしの背中を温めてくれた。
目の前のルートが鮮明に見える。
自然と、涙が出てきた。
朝が迎えられないと思っていたから。
朝までかかってしまったから。
どちらの思いも同時にやってきて、バレないように静かに感情を押し堪えた。
もうすぐ着きます。
サポーターに連絡を入れた。そのメールをした時に友人から届いていたメールに気づいた『4位だよ!がんばれ!』と。
4位。
すかさず、3位は今どこ、と返信した。『まだサマリゾートに着いてないから近くにいるよ』と返ってきた。
スイッチが入った。
本当に迷ったが、迷ったけどここは勝負したい。
ここまで連れてきてくれたその男性に『ごめんなさい!!!わたし3位になりたいので、ここから先に行ってもいいですか!!』大声でいきなり言ったもんだから、びっくりしている顔を見ながらも、もう一度いった『ここまでありがとうございました。本当に本当に感謝してます。先に行かせてください。』
なんて最低なやつなんだ、と自分でも思う。連れていけ、といったと思ったら、今度はさよらな、という。逆の立場だったら、ぜったいこの後会うことはないと思う。
それでも、最後までレースをしたかった。男性は『いいですよ』とぼーっとしながらも笑って見送ってくれた。
サマリゾートの近くにやってきた。向こうからサポーターとカメラマンと思われる2人が歩いてこっちにむかっているのが見えた。
目がウルウルしだして、声も出ずに、大きく腕をあげた。
気づいてくれた2人はすかさず撮影の準備に入ってくれた。
そして目の前までやってきた。
やっと、やっと降りてきた。
『よく頑張ったな』
その言葉で涙腺が崩壊した。
つづく。
第一章:スタート前の興奮・緊張・歓喜、こうして始まったOman by UTMB
第六章: マイナス思考との葛藤が続く2日目の夜へ
最終章:この瞬間はこの時しかなかった
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