キミノの大冒険

12月はコツコツと。

マイペースを決めるときの落とし穴に注意

長時間運動し続けるために必要なマイペース。山の適切なペースを生理学的な指標でだすと、下記の通り。

 

最高心拍数の「75%」以下

主観的なきつさでいうと「ややきつい」以下

 

という話を昨日しました☟

k1m1n0.hatenablog.jp

 

この「マイペース」と「生理学的指標」の一致が難しい、という話をしましたが、実は面白い研究が結果があるのです。(自分の研究なんだけどね。笑)

 

今日はマイペースを決めるには落とし穴があるよ、って話。

 

 

 

マイペースを決める基準値ができた背景

 

先ほど示した2つの指標ですが、この基準値を出す時の実験結果というのは、自分で決めた速度ではなく、実験的に決めた速度を歩いた時に得られた身体の反応を見ているのです。

 

説明わかりづらいですよね。笑

 

もう少し説明すると・・・速度はあらかじめ決まっていて、のんびり散歩より遅い速度から、普通歩き、早歩き、行ける人は速歩まで、少しずつ速度を上げていき、その時の身体の反応を、LTを基準した場合に、心拍数や主観的なきつさが「いくつか」というデータを算出しているのです。

 

 

https://www.instagram.com/p/BwjWCTzhP6f/

Instagram@miyazaki_kimino 

 

上のようなトレッドミルを使って実験をするのですが、自分の意志でスピードが決まるわけではないってことを分かってもらえれば。

 

まだ分かりづらいかな?笑

 

LT値 ⇒ ややきついと感じる速度

 

上記のような実験結果の多くは、LT値を基準にのカラダの反応(心拍数や主観的なきつさ)を見ており、この式が成り立つわけなのです。

 

じゃあ、これが反対だったらどうなるの?という疑問が出てきませんか?出てきますよね?笑 私の大学院生の時の疑問だったのです。

 

「ややきつい」で歩くと、LT程度の強度になるのか

 

つまりこうゆうこと。

 

ややきついと感じる速度 ⇒ LT値  

 

両者の関係にはどちらも言えるのか。自分の感覚で歩いた時にも、LT値になるのかどうか。下記のように、間の矢印が相互関係にあたる、という仮説のもと実験をしてみました。

 

LT値 ⇔ ややきついと感じる速度

 

舞台は鹿児島の大箆柄岳(おおのがらだけ)。のぼりが続く良い山です。毎回天気が悪くて、山頂の景色は見れないという曇り女炸裂の実験でしたが。笑

 

実験は下のような感じ。

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実験プロトコル

上りが続くポイントまでウォーミングアップがてら、ゆっくり上り、スタート地点から各自のスピードで登り始めます。

 

最初は自分の感覚で「かなり楽だな~」と思うスピードで登ってもらい、標高差100m登ったら一旦乳酸測定で休憩。5~10分程度休んだら、次の「楽だな~」と思うスピードで登ってもらう。その繰り返し。

 

登山経験のほとんどない体育大生、男女9名の方に協力してもらいました。

 

そうして、はじまった実験はなかなか大変で、柔道部の子とか、体育大だけど運動してない子とか、大先輩連れてったりしながら測ったデータは、やっぱり思い出深いものでした。写真ひとつも残って無かったけど。笑

 

そして面白いな!と思った結果がこちら!

 

主観で歩くとLT値を超える?!

 

横軸が主観的なきつさ、縦軸が乳酸値。細い線が個人の値で、太い線が平均値。

平均値を見ると、おおよそ「きつさを感じる手前」~「ややきつい」ペースの間でLTライン(2ミリモルを基準)を越えているのが分かります。 

 

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登山の運動生理学とトレーニング学(p90)参照

この図の説明欄に書いてる宮﨑は私のこと。私の研究が使われてめっちゃ嬉しい・・・

つまり、「ややきつい」で登るとマイペースの基準であるLTを越えてしまったのです。

 

詳しく個々のデータを見ると、平均は越えているとは言っても、3分の1はLT以下の結果でした。このLT以下で歩けた人たちは、普段から運動をしており体力には自信がある、という点で共通点が見つかりました。

 

 

マイペースの速度は、体力によって基準を変えるべし

一方で「ややきつい」で歩いてしまうと、5ミリモルを越えるほどの高強度となってしまう子もいました。この子の特徴は、一般的な同い年の女性よりは体力はあるけれど、運動を普段していない子。当時は22歳の女の子だったのですが、今回のメンバーでは特に体力が低い子でした。

 

この子の場合は、自分の感覚をうまくコントロールすることが難しかったのです。しかし、「楽」であればうまくLT以下で歩くことができました。

 

ちなみに、この結果に男女差は無く、毎日運動しており体力も申し分ない人でも全員が「きつい」を越えるとLTを越えていることも分かりました。

 

 

***今回の実験のまとめ***

・「ややきつい」と感じる速度で歩くとLTを越えてしまうケースが多かった

・「楽ではないが、きつさは感じないレベル」で歩くと低体力者を除く全員がLT以下のレベルを保てた

・「楽」と感じる速度であれば低体力者でもLT以下のレベルを保てた

 

マイペースの速度が『ややきつい』と感じる速度で運動するとLTを越えてしまうケースが多いことが分かりました。また、体力に自信があっても、山に慣れていない方の場合は「きつさを感じないレベル」で歩くことがベストだと思います。 

 

 

私が体験したトレイルランニングの場合

 

主観を頼りにするとLTを越えてバテてしまうかもしれないよ、というのが今回の実験で分かりました。しかし、きつさは感じてないよ~と思って走っていたらバテてしまったのが2015年のITJ(昨日のブログの話)。

 

それには落とし穴があったのです。

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2017年ART

 

 

山は慣れていても、トレイルランニングはまだまだ始めたばかりのことの時は、10時間も運動し続ける体力はありませんでした。そのため、「きつさを感じないレベル」ではまだまだマイペースより速かったのです。

 

「楽」と感じる速度、これが最後まで走り続けるための基準でした。

 

 

無で走ったSTY

 

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余裕たっぷりのSTY

そして迎えた本番の2015年のSTY(優勝)は見事にはまりました。コースの3分の2までは、『無』をモットーに走っていました。笑

 

極端な言い方ですが、飛ばさないように、飛ばさないようにとスピードをコントロールするために、とにかく何も考えないこと。全身の力を抜いて「ただ勝手に体が動いている」というペースを作りだす工夫をいくつもしました。

 

そのくらい長い距離を走るには、楽に走らないとダメだ、というのが良く分かった大会でもありました。

 

そうして走った時のSTYの%HRmaxの変化がこちら👇

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当時の%HRmaxの変化

 

昨日だしたITJの時と比べると後半が点線よりも落ちているところが少ないのが分かるかと思います。そして前半がITJよりも飛ばしていないのです。抑えて抑えて、と走った結果が結果的に最高95%HRmaxまで上がっていた心拍を80%台で抑えることができました。

 

ちょっと分かりづらいですが。笑

(詳しく比較するのはまた別の話題で)

 

結果的にレース全体の平均%HRmaxは、ITJでは79%(一見良さそうで、最大値と最低値の差が大きい)でしたが、STYでは81%(最大と最低値を小さくすることができました)まで上げることができました。この差が、2位から1位へと引き上げた要因だったと思っています。

 

これを頭に強く強く入れないと・・・・オマーンのように途中で失速してしまうのです。。。👇 

k1m1n0.hatenablog.jp

 

 

50マイルは1年でクリアしましたが、100マイルをマイペースで走るにはなかなかうまく行きません。うまく走るための1つがやっぱり心拍数と主観的なきつさ。

 

また基準が変わってくるのだなと、感じ今は常に心拍数を管理しながら走っています。

 

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そんな話を週末実践を通して感じてもらおうと思っていますので、ぜひ皆さま福岡へお越しください♩

トレイルランニング2020福岡フォーラム|JTRA|日本トレイルランナーズ協会

 

興味あればこちらもぜひ👇

乳酸性閾値以下のレベルで登高するための主観的運動強度はどれくらいか-登山の初心者を対象とした検討-宮崎喜美乃, 山本正嘉(鹿屋体育大学), 登山医学 33(1): 108-113, 2013.

 

 

今日は長かったのに最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

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