
トップアスリートであっても、その日のホルモンの波でパフォーマンスはガラッと変わる。意志や努力ではどうにもならない現実が、確かにある。
女性アスリートを支えるということは、生理と向き合うということ。
どんなに完璧な練習を積んでも、どれだけ準備をしていても、 身体が「今日は違う」と言ってくる日がある。
――それを無視して戦うのではなく、理解して共に挑むこと。それが、本気で勝負するうえで欠かせない姿勢だ。

私自身、ホルモンにずっと振り回されてきた。
――いや、今も、振り回され続けている。
ロングレースの週に月経がぶつかると、身体はまるで別物になる。体温が高く、汗が溢れ、むくみも強くなる。補給もうまくいかない、関節が緩む……まだまだある。
時には、レース中に突然月経がきて、ショーツを汚し、レースどころではなくなったこともある。
あの海外レースで味わった無力感は、今も心に残っている。
だから私は、信頼関係ができた女性ランナーには、まず生理周期のことを聞く。
生理痛が重いタイプか、ホルモンに影響を受けやすいタイプか。
レースが厳しい週に当たれば、備える強化をする。良いタイミングに当たるなら、それを言葉にして背中を押す。
なぜなら――
ほとんどの女性は、自分の「波」を知らずに戦っているから。

世界を見れば、チームが支えるのが当たり前だ。
ホルモンに応じたトレーニングメニュー、遠征計画、補給設計。 選手の身体を支える複数の専門家がいて、勝つための環境が整っている。
でも、私にはそこまでの資金も、仲間も限られていた。 だからこそ、“実践と学び”を武器にしてきた。
データを集め、書籍を読み、専門家を訪ねて、仮説を立て、自分の身体で実験する。 ときには、リスクを負いながら。 それは一種の“遠回り”だったかもしれない。
だけど、私はそれを「世界で戦うために必要なこと」だと信じていた。 その信念は、負ではなく、前を向く力となり10年が経った。

でも、やっぱり思う。
私より若い女性ランナーが、私と同じように遠回りする必要なんて、もうないはずだ。
何より、女性が勝負できるアスリートの時間は、限られている。
だからこそ、ホルモンを知ることは「戦略」であり、それを語れる関係性こそが「チーム」なんだと思う。
でも、私もまた、一人の女性アスリートだ。
すべての人を見届けることはできない。
そこに、ずっとジレンマを抱えてきた。
だけど、この数ヶ月で確かに感じた。
女性ホルモンは、耐えるべきものじゃない。
理解して、一緒に戦えばいい相手なんだと。


だから、私はまだ現役で走り続ける。
女性には女性の戦い方があるーーそのことを伝えたいから。
私たちは、戦っている。
ほんの10%しかない“ベストな日”を、
手繰り寄せるために。
一緒に、強くなろう。