キミノの大冒険

12月はコツコツと。

富士登山には必ず高山病対策を

富士山。日本最高峰であり、一度は登りたい、という人は多くいらっしゃると思います。しかし普通の山と違うのが、標高の高さ。3,776mという富士山の標高を酸素量で表すと、通常私たちが住んでいる平地と比べ約3分の2まで減ります。

 

生きるのに必ず必要なのが『酸素』です。この酸素が減るとどうなるか。低酸素環境、つまり高所では、私たちはただ歩くのさえ、きつく感じ、頭痛・吐き気・眠気といった高山病の症状が出てくる方もいます。そのため、体力がある、というだけでは登れる山ではありません。 

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少し古いデータなりますが、2008年の富士登山の登頂率は75%と報告されています。毎年の富士山の登頂率、というものは正確なデータがないものの、6合目・8合目の通過人数を調査している団体があります。2017年の夏(7月~9月10日)に吉田口6合目通過者:223,800人(富士山安全指導センター調べ)、吉田口8合目通過者:172,657人(環境省関東地方環境事務所調べ)であることが報告されています。それぞれ調査方法が違うため単純計算は難しいものの、計算すると8合目通過は全体の77%であることが分かります。山頂までを考えると、昨年は70%前半が登頂率であると推測されます。

 

8合目で断念する方の多くが体調不良により下山をしています。その体調不良の中でも特に多い症状が『高山病』です。富士山八合目富士吉田救助所の調べ(標高3,100m)では、2017年の受信者数は400人を超え、その66%が高山病によるものだと報告しています。 

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高山病』富士登山登頂には必ずしも知っておくべき言葉です。この症状がどのような症状かというと、主な症状として、頭痛はほぼ頻発であり、かつ消化器系症状である食欲不振・吐き気・嘔吐、疲労感、全身倦怠感、めまい、もうろう感、睡眠障害などのどれかを伴う症状です。ひどい場合は、死に繋がる肺水腫や脳浮腫に繋がることもあります。

 

そんな決して楽ではない山に、昨年、長崎、熊本、鹿児島からそれぞれ飛行機を使って集まった5名のトレイルランナー・ロードランナーと一緒に富士山へ登ってきました。名付けて『フジヤマノボレプロジェクト』。

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道中笑いあり、苦しみあり、高山病あり、の楽しい山行となりました。登高中はパルスオキシメータという機械を付けて、血液中の酸欠度合い(以下、カラダの酸欠度:詳細はこちら『Andorraの大冒険』)を測りながら登りました。そして協力してくれたみんなのおかげで、興味深い知見も得られました。

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というのも、メンバー6名の中で、高山病にかかった組(黄色と橙色)とかからなかった組に(青色)綺麗に半々に分かれたのです。測定結果は下記の通り。

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高山病にかかりやすい人は、カラダの酸欠度が低い、という特徴があります。しかし基準はありません。平地では88%を下回ると、在宅酸素療法が必要とされるため、高所(低酸素環境)では、平地ではありえないほどの酸欠状態となることは、図を見てもらえれば分かると思います。

 

今回の結果と私の研究室で過去に行われていたデータを比較したのが、下記の表になります。今回のプロジェクトメンバーはを3タイプに分けて比較してみました。

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①登山経験・高所経験ともに豊富(図:青色)

青組3名は、毎年富士山に登っている、海外の高所レースに参加しているなど、高所経験が豊富であり、この登高速度であれば、高山病の心配はいりませんでした。

②登山経験は豊富だが高所経験は乏しい(図:黄色)

黄組2名は、数多くのトレイルレースに参加し100㎞のトレイルも走れるほどの体力はありますが、標高2,500m以上の山に登った経験がなかったため、低酸素環境では体力がほぼ同じであった青組の1名よりも酸欠度が大きく、歩くスピードが遅くなる、ふらふらする、末端の酸欠状態であるチアノーゼなどの症状がでてきました。

③登山経験・高所経験ともに乏しい(図:橙色)

橙組1名は、フルマラソンはサブ3に近いランナーであり、ほかのメンバーの中でも体力は十分にあるものの、山の経験が乏しいため、今回のペースは速すぎました。そのため皆より酸欠度が大きく、黄組の症状のほかにも、寒さ・眠気が強くでるなど、高山病の初期の症状がより顕著にでてきました。

高山病には体力は関係ない、とうのがよく分かりました。(といいつつ、誘ったのは私で、ペースを考えずに突っ込んでしまったので…原因は私なのが本当に申し訳ない...)しかしメンバー全員登頂できました。その理由が①呼吸法②こまめな水分補給③エネルギー補給の3点だったと思います。

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橙組の1名も呼吸法を教えるとすぐにカラダの酸欠度も改善。新7合目ではカラダの酸欠度合は79%→89%へ。休憩や水分補給も積極的に行ってもらいました。高所では湿度が低いため脱水症状になりやすいです。そのため、吸収率を上げるためにも、こまめに摂るように伝えました。また、山頂ではみんなで温かいヌードルを。温かい飲み物、というのは血の巡りをよくするため酸素をスムーズに運んでくれます。そして歩きながら食べることに慣れていない人が陥りやすいのがエネルギー不足。今回もエネルギージェルを食べたりパンやおにぎりを摂取していましたが、山に慣れていないため、他のみんなよりもエネルギーを使っていた分、摂取量が間に合っていませんでした。山頂ではしっかり補給することで、カラダの酸欠度合は58%→82%へと改善しました。

 

HPや雑誌にもたくさん情報は載っていますが、やはり身をもって現場で体験することで、登高速度、水分・栄養補給・呼吸法・ウエアの大切さをより感じました。今年も多くの方が富士山を駆け上がると思いますが、初めての方は特に、下の点について注意してもらえればと思います。f:id:k1m1n0:20180618153407j:plain

【山に行く前の低酸素シミュレーションー富士山テストー】

高山病にかかる大きな原因が、どんな症状か分からない!なった時にどうしたらいいか分からない!という点です。事前にそれらを知っていれば、早めに、落ち着いて対処できるため、登頂の確率をグン!とアップできます。初めての方、何度もチャレンジしていても高山病になってしまう、という方はぜひ高山病対策に『富士山テスト』を受けてみてください。

www.snowdolphins.com

 

富士山からの景色はほかの山とは比べものにならないほど、開放感がたっぷりで気持ちがいいです。ぜひ、事前に高山病の知識を持ってチャレンジして欲しいなと思います。

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