ハッと目が覚めた。横になった瞬間に寝てたみたいだ。岩の上で直射日光を浴びたのに体が冷えている。
そろそろ行かないと、と思い立ち上がった。完全に頭がボーとしている。エネルギーが無いのが分かるが、食べれない。胃の回復を促すために、生姜タブレットをひたすら噛んで食べた。
正直この区間でサポーターと会話をしたがあまり覚えてない。とにかく皆んなの元に着いたら安心して、とにかく横になって回復したかった。そのあと多分声かけてもらって起きたと思うけど、あまり覚えてない。
奥にスチールのマサさんが撮影してくれてる。カメラマンの翔さんも撮ってくれてる。スチールの加藤さんが私を追う。嵐洋さんが無言で前のほうにいた。
ここの区間はそれだけの記憶だった。
そこへ行こうと。そう思うと身体を動かせた。
炎天下なのに動かないと冷える。一山超えたら次のチェックポイントだと、教わって向かったが、一山どころじゃない、5つくらい越えてやっとボス山がいた。
疲れてるからなのか、エネルギーがないからなのか、このコースがタフ過ぎるのか、分からない。
でもおかげで身体は温まってきた。
とにかく前に進もう。
一歩が次に繋がる。
色々考えるのは、次のチェックポイントにしよう。
そう何度も唱え続けたが、この区間が一番参ってしまった。
どうしてこんなことになったのか。
やっぱりマイルは私には向いてないのじゃないか。
そもそもヤマ自体向いてないてないのか。
アスリート自体もうダメか。
辞めたら山業界にも入れないな。
ひたすらマイナスワードが出てくる。
でも対照的に
『今』を動かすしかないだろ。
キミノならできるさ。
この苦しいの初めてじゃないだろ。
前進める人が強い人だ。
三つのマイナスワードに対して、一つのプラスワードを言い聞かし続けた。
人は、三人称で応援すると力が出るらしい。
私ならできる。よりも
キミならできる。の方が暗示されやすいと。
ひたすらもう一人の自分を作り出し、弱い自分に声をかけ続けた。
この区間は葛藤が長く続いたが、やっとのことチェックポイント14に着き、必携品チェックとメディカルチェックを受けた。
116.7km/7399m+地点、15:56通過。この時点ですでに26:55:46時間経過している。
SpO2を測ると86%
(°_°)
あれ?標高そんな高くないよね。汗
あわてて冷たくなっていた手を温めて測り直した。こっそり呼吸法しながら、バレないように。
SpO2は93%
『good』
問診で体調と尿の色の確認、心臓音や、目線の動きなども調べられて、許可が出た。
ふー。。。。。
複雑な想いを抱えながら、後ろの人はメディカルチェックに引っかかって130kmのゴールへと向かわされていた。
どうにかチェックはクリアしたけど、身体も心も追いついてない。スープを3杯もらった。今回のエイドで私が食べれるものが少ない。水だけ準備していると、恐らくスタッフ用のスープを選手にも振る舞ってくれた。
食べれなかった胃に染み込むように入っていき、身体が温まった。
焚き火に身体をあてながら、ワンモアプリーズ、オーケー?とお願いして飲ませてもらった。
まだ身体は冷えていたので、ウェアを全て着て携帯を見た。これから夜へと向かう状況で、この身体の状態は不安だ。
電波無し。
さすがに電波なく連絡が取れなかった。大会スタッフに電波がある場所を教えてくれ、と泣きなしの英語で尋ねた。
あの岩を登ればあると。、多分そう言っていたはずなんだけど。
電波が無い。
さっきのポイントまで戻るのも億劫だ。先に進むしか無い。
だいぶ下った先で電波が入ったのを確認した。すぐにサポートのユミさんに電話をした。
寒いです。これから夜に入るのに心配です。
素直に伝えた。
ユミさんは『大丈夫?』と聞いてくれた。
咄嗟に『大丈夫です。』と反射的に答えた。
日本人は大丈夫?時聞かれると、大丈夫と答えるから、高山病の心配がある人への声かけはそう言っちゃいけないよ、と指導しているが。
案の定、大丈夫、と答えた。
でも反対に、大丈夫、と答えると、何故か行ける気がしてきた。
サポーターから改めて連絡が来た。
嵐洋さんだった『どうだ?』
スープ食べて温まったんで、大丈夫だと思います。
なぜかマイナス思考が少しずつ消えてきた。
『今から夜が来るからな。エイドはウォーターステーションも無い。そのこと考えて進めよ。』
分かりました。
『待ってるからな』
はい。随時連絡します。
長い長い戦いとなるシャムス山への道が開かれた。
つづく。
第一章:スタート前の興奮・緊張・歓喜、こうして始まったOman by UTMB
最終章:この瞬間はこの時しかなかった
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